研究内容

研究背景・目的

匂いの濃縮とは

図1 (a)アップルに対するセンサ応答
(b)オレンジに対するセンサ応答

 匂いの識別は図1に示すような、特性の異なる複数のセンサを用いたパターン認識を用いて行います。図1の(a)はりんご、(b)はオレンジに対するセンサ応答であり、互いに異なる信号が得られていることが分かります。図1のように、センサ応答が十分大きければ良いのですが、低濃度の匂いを測定する場合センサ応答の波形の特徴がはっきりしない場合があります。


図2 濃縮前と濃縮後のセンサ応答のイメージ

 その解決策として濃縮が挙げられます。図2のように、小さな応答しか得られない匂いを濃縮することで大きなセンサ応答を得ることができます。大きいセンサ応答が得られると応答の特徴が分かりやすくなるため、パターン認識精度が向上します。

先行研究の問題点


図3 熱濃縮管

 先行研究である熱濃縮管の構造を図3に示します。熱濃縮管はステンレス管の中に充填された吸着剤(Tenax-TA)によって匂いの吸着を行い、ニクロム線で熱することで匂いの脱着を行う濃縮デバイスです。濃縮に時間がかかる(熱伝達に時間がかかるため)、小型化に向かない、素子間にばらつきがでるという問題がありました。

本研究の目的

図4 SAWデバイスとペルチェ素子による濃縮の原理

 本研究ではペルチェ素子とSAWデバイスを用いた濃縮材を用いない新しい原理の濃縮素子を提案します。図4のように、匂いをペルチェ素子で冷却したSAWデバイスの表面に凝縮させ、蓄積させます。その後、SAWのacoustic streaming現象により凝縮した液体を気化させてセンサに供給することで検知を行います。匂いの脱着が熱濃縮管に比べて高速なので、短時間での濃縮ができると考えられます。また、SAWデバイスはフォトリソグラフィーで作製するので小型化に向き、製品のばらつきを抑えることができます。本研究の目的は先行研究の課題を解決することができる濃縮素子の実証、特に匂い検知で重要な成分である低揮発性香気成分を効率良く高速に濃縮することです。

実験系について

濃縮素子

図5 濃縮素子の全体図

 図5に濃縮素子の全体図を示します。チューブとアクリルセルは濃縮対象の匂いサンプルをペルチェ素子に供給するために使用します。アクリルセル中にQCMセンサとSAWデバイスが入っています。また、冷却効果を高めるため、SAWデバイスはペルチェ素子と熱伝導性ペーストで接着しています。

実験装置の説明

図6 実験系のブロック図

 図6に濃縮実験のブロック図を示します。図6の太線は空気の流れを、細線は電気的な接続を表しています。実験では二個のサンプリングバッグを用い、片方には乾燥空気を、もう片方には濃縮対象の匂いを入れて電磁弁で切り替え濃縮素子に送ります。送られた匂いは濃縮素子中のペルチェ素子によってSAWデバイス上に凝縮されます。凝縮された匂いはSAWデバイスによって霧化され、常に一定の流量でエアポンプによって吸引されます。ガスの濃度はQCMで発振周波数の変化としてFPGA(Field Programmable Gate Array)に実装した周波数カウンタを通して記録されます。また、ペルチェ素子や電磁弁、SAWデバイスなど駆動信号はFPGAを通してパソコンで制御されます。

実験結果

1-ブタノールの濃縮

図7 1-ブタノールに対する濃縮実験の結果

 図7に匂いサンプルとして1000ppmの1-ブタノールを使った場合の濃縮結果を示します。匂いを計測開始から60秒後に濃縮素子に送り、測定開始後180秒から冷却を開始しました。冷却は120秒間行われ、冷却停止後ただちに匂いサンプルを乾燥空気に戻して霧化を開始しました。濃縮結果は320秒辺りで見られるセンサ応答のピークとして得られています。本実験によって、濃縮後の匂いの脱着が数十秒で行えることが示され、熱濃縮管と比較し高速に濃縮が行えることが確認できました。

1-ノナノールの濃縮

図8 低揮発性香気成分である1-ノナノールに対する濃縮実験の結果

 低揮発性香気成分とは、少量でも匂いを強く感じる成分なので匂い検知する上で重要です。そこで、低揮発性香気成分である1-ノナノールを使用し濃縮実験を行いました。
 図8にその結果を示します。センサ応答が供給した匂い以外の原因で変化していないかを確かめるために、匂いサンプルの代わりに乾燥空気を濃縮した結果を合わせて示します。冷却時間は120秒であり、320秒辺りに出ているピークが濃縮結果です。また、図8における冷却開始直後のセンサ応答の変化は、QCMの温度特性によるものだと考えられます。図8の実験開始から180秒後の周波数変化が-10Hz程度であり、これが濃縮前の1-ノナノールに対するセンサ応答です。そのため、濃縮後には濃度の低い1-ノナノールから7倍程度のセンサ応答を得られたことが図8から分かります。本実験によって、低揮発性香気成分への濃縮効果を確認できました。
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