濃縮管と電気化学式センサアレイを用いた口臭の識別

 近年、歯科医療機関への口臭に対する相談が増加している。口臭は3種の揮発性硫黄化合物(VSCs: Volatile Sulphur Compounds)が原因とされている。そこで、歯科医療の分野で客観的な指標を得ることができる簡便な口臭測定器の開発が望まれる。既存の口臭測定方法は、医師による官能検査と口臭測定器に依存している。前者は主観的な口臭評価法であり、この方式は客観的なデータを患者に対し提供できない。後者にあげた既存の口臭測定器は湿度に影響があること、測定及び測定準備に費やす時間が長いこと、各VSCsを識別できないこと等の課題を持つ。このように既存の口臭測定方法は十分ではない。
 人間の口腔内は多湿で、硫黄化合物は低濃度で存在している。そのため本研究では、湿度の影響を受けない電気化学式センサアレイと、低濃度VSCsの感度を上げるための濃縮管を組み合わせたシステムを開発した。濃縮管とはステンレス管内に多孔質の吸着剤を充填し、その外部にヒータコイルを巻いたもので匂いサンプルを蓄積し、ヒータによる加熱脱着時に濃度が高まったガスをセンサに供給する素子である。濃縮管はガスに対する高い濃縮効果(図1)や吸着ガスの選択が可能であるといった特長を備える。ガスの濃縮によりセンサ感度の向上が可能である。本研究では活性炭を吸着剤として用いた。

図1:濃縮管によるガス濃度の向上

システム概略図

図2:3成分測定用システム

測定手順
1. サンプル供給
 濃縮管内の濃縮剤にサンプルを吸着させる。ポンプを用いて気相で混合したサンプルを吸引する。混合サンプルの混合比はマスフロコントローラ(MFC)を用いて任意に調整できる。吸着時の温度は室温とする。サンプルは図2の流路@を通る。
2. 脱着
 1が終了した後直ちに電磁弁を切り替え、図2の流路Aにする。その直後、濃縮管の加熱を開始する。ガスボンベ内の乾燥空気をキャリアガスとして用いる。熱脱着したサンプルがセンサアレイに流れ、センサ応答を得る。
3. クリーニング
 2が終了したら冷却用ファンをまわし濃縮管の温度が下がるのを待つ。そして同様に乾燥空気を流路Aに流しながら、再び濃縮管を加熱することで残留したサンプルを取り除く。脱着よりも加熱時間を長くする。

実際の口臭レベルにおける口臭原因物質の濃度測定
図2のシステム系において3つのMFCの流量を調節することでH2S 、CH3SH、 (CH3)2Sの濃度を任意に調節した。それぞれの濃度の組み合わせで2回ずつセンサ応答を測定した。実際の口臭測定で必要な濃度範囲は200ppb〜1ppm程度である。ただし(CH3)2Sに関しては、センサ応答が他の2つに比べて大きくかつ実際の口臭でもそれほど寄与が大きくないので1/4の濃度とした。結果を図1に示す。
次にPartial Least Squares (PLS)法を用いて、H2S 、CH3SH、 (CH3)2Sの濃度推定を行った。表1の8組の測定結果のうち、7組をトレーニングセットとして用いた。そして残りの1組のセンサ応答から混合したサンプル濃度を推定した。この結果を図3〜5に示す。ほとんどのプロットはX=Y線の近くにあり、混合サンプルのセンサ応答からサンプル濃度を推定することができ、臨床応用への可能性を示すことができた。
また、干渉ガスとして人間の呼気に含まれる可能性のあるガスに対してもセンサ応答を測定し、ほぼ影響がないことを確認した。
表1:3種のVSCsの組み合わせとその混合サンプルのセンサ応答



図3:H2Sの実際の濃度と推定した濃度


図4:CH3SHの実際の濃度と推定した濃度


図5:(CH3)2Sの実際の濃度と推定した濃度