実時間参照方式(逐次測定型)の匂い記録手法

はじめに
本研究室では,水晶振動子匂いセンサを用いて電子的に匂いを記録・再生する 匂い記録・再生システム(匂いレコーダ)を実現した . Fig. 1に匂いレコーダの記録部分の概念図を示す.匂い検出部として水晶振動子匂いセンサを用いた. この匂いセンサは湿度・温度に依存するが, このシステムでは対象臭と調合臭を相対測定するため, 原理的には温度や湿度の管理を必要としない.しかし,匂いセンサには現状では個体差があるために, 対象臭と調合臭を同一のセンサで測定する必要があり, 両者を同時に測定できない. そのため,従来,対象臭を測定してから調合臭の測定が終了するまでの数分間は,出来る限り温度・湿度を一定に保つ必要があった. しかし,クーラのON/OFF等の影響を除去するにはまだ不十分である.そこで,温度・湿度に対するロバスト性を向上するため, 実時間参照方式と言う新たな匂い記録方法を考案した.

Fig. 1 匂い記録・再生システム(匂いレコーダ)に対する環境変化の影響

実時間参照方式による匂い記録方法
従来法と実時間参照方式における記録方法の比較をFig. 2に示す. 従来法では,Fig. 2(a)に示すように,初めに対象臭を測定し, その後,空気を流してベースラインをとり直してから調合臭の測定を行う.そのため,対象臭に対する測定と調合臭に対する測定で環境に変化があった場合, 匂いの記録結果はその環境変化に大きく影響された. それに対し,Fig. 2(b)に示す実時間参照方式では,対象臭と調合臭をサンプリング周期毎に交互に測定し, 環境変化に対するロバスト性の向上を図った.調合臭を測定する間に対象臭を実時間で参照測定するため, この方式のことを「実時間参照方式」と呼ぶ.
次節の実時間参照方式(同時測定型)と区別するため、本節の実時間参照方式を「逐次測定型」と呼ぶ ?
(a) 従来法

(b) 実時間参照方式
Fig. 2 従来法と実時間参照方式の比較

匂い記録実験
匂いサンプルとして,Table 1に示す4種類のりんごの成分を用いた. 対象臭として,この4成分を混合比 (要素臭1:要素臭2:要素臭3:要素臭4)=(80%RC, 60%RC, 40%RC, 20%RC)で混合した匂いを用いた.ただし,匂いサンプルはサンプル瓶に液体状態で用意し,そのヘッドスペースを用いた. %RCはそのヘッドスペース濃度に対する相対濃度を表す.

Table 1 りんご臭の成分
* りんご臭の成分 匂いの特徴
要素臭1 trans-2-hexenyl acetate グリーンノート
要素臭2 trans-2-hexenal 青臭い匂い
要素臭3 isobutyric acid 甘酸っぱい匂い
要素臭4 ethyl valerate フルーティな果肉感

環境変化に対するロバスト性を調べるため,ヒータを用いて温度を故意に変化させたときの匂い記録の様子をFig. 3に示す.横軸は時間,縦軸は調合臭における各要素臭の相対濃度を表す. 各要素臭の相対濃度が対象臭濃度(80%RC, 60%RC, 40%RC, 20%RC)に収束すれば, そのレシピに基づいて対象と同じ匂いを再生できる. 従来法では,Fig. 3(a)に示すように,約100秒の時点で温度変化の影響を大きく受けて匂い記録に失敗した. それに対し,実時間参照方式では,Fig. 3(b)に示すように,約200秒の時点の温度変化に関わらず, 安定して匂いを記録できた.

実時間参照方式では対象臭をリアルタイムに参照するため, 対象臭が時間的に変化した場合でも,それに追従して匂い記録を行うことが出来る. 今後,このような動的に変化する匂い記録を試みる.

(a) 従来法による匂い記録結果

(b) 実時間参照方式による匂い記録結果
Fig. 3 温度変化時の従来法と実時間参照方式による匂い記録結果

関連文献
1. 山中高夫, 中本高道, "実時間参照方式による匂い記録・再生システムの環境変化に対するロバスト性向上", 電気学会論文誌E, Jun. 2002, pp. 312-317.
2. T. Yamanaka, T. Nakamoto, "Real-time reference method in odor recorder under environmental change", 9th International Meeting on Chemical Sensors, IMCS9, Boston, USA, 7-10 July 2002, CS 240 OR.
実時間参照方式(同時測定型)による動的匂い記録