FAIMSを用いた混合ガスの濃度定量

研究背景と目的

匂いとは、複数の匂い成分の混合ガスである。匂いの記録・再生には、各匂い成分の濃度の情報が必要となる。

FAIMSについて

FAIMS (Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry)では、イオン化したガス分子の移動度の差を利用してイオンを分離して計測する。
FAIMS装置内では、以下のことが行われている。

  1. 水素イオンでサンプルをイオン化
  2. 非対称な電界を印加

CV(compensation voltage)とDF(dispersion field)を振り分けることで、通過するイオンの種類とイオン電流の強度が変化し下図(c)のような画像が得られる。
画像はガスの種類と濃度により変化する。

(a) FAIMS内部のガス分子の経路
(b) 印加される非対称電界
(c) FAIMSの出力例

図1. FAIMSでの計測原理(a,b)と出力例(c) [1]

検出されるイオン電流の強度は匂い成分の濃度とともに増加するが、その関係は非線形であるため、線形の手法では出力から濃度を推定することが難しい。

混合ガスの計測方法

計測する物質として、アセトン、ジエチルエーテル、エタノールの三つを選択した。
各成分を入れたサンプリングバッグからの流量はMFC(mass flow controller)で制御する。FAIMSとMFCはMATLABを用いて動作させた。

図2. FAIMSを用いた測定系のブロック図 [1]

濃度探索シミュレーション

正解点と探索開始点との出力値の差から誤差曲面を考える。

図3. 二成分の場合(各濃度がC1, C2)の正解点と誤差曲面 [1]

その後、最急降下法を用いて濃度探索を行った。

(a) 濃度探索によって正解点に近づき、収束する様子
(b) 探索回数と、正解点との成分ごとの相対誤差の関係

図4. 濃度探索の様子(a)と、探索回数と各成分の誤差の関係(b) [1]

上図のように探索回数を増やすと各成分の誤差が減少した。
つまり、FAIMSの3成分混合ガスへの出力データに最急降下法による濃度探索を用いることで、濃度定量を行うことができた。

参考文献

  1. Yokoshiki, Yasufumi, and Takamichi Nakamoto. "Ternary Gas Mixture Quantification Using Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry (FAIMS)." Sensors 19.13 (2019): 3007.