国際会議リサーチデモ
概要
東京工業大学客員教授Nathan Cohen教授(ロンドン芸術大学)との共同研究として、匂いつきデジタルコンテンツ"The Aromatic Garden"を制作した。 制作したコンテンツを使用して SIGGRAPH Asia 2021にて実演 を行い、のべ約100人の方に体験していただいた(図1)。


匂い付きデジタルコンテンツ "The Aromatic Garden"
コンセプト
本研究では、嗅覚ディスプレイを用いて匂いと映像を統合したインタラクティブゲームを作成し、ユーザーに仮想環境での探索を楽しんでもらうことを目指した。 そのため、ゲームの最初のバージョンとして「匂いを探し、集める」ゲームを作成した。 ゲームでは、4つの架空の風景の中に合計12個の匂いが配置されている(図2)。 ある風景から別の風景へは、2つの匂いを結ぶ「トンネル」を通って移動できる(図2の矢印)。

遊び方
- スタート画面で好きなアバターを選ぶ
- アバターを動かして、風景の中を自由に探索する
- 弱い匂いを感じたら、その匂いが強くなる方向を辿る
- 匂いの中心に到達すると匂いを獲得できる
図3 基本操作の様子
- トンネルへの入口になっている匂い(12個中4個)では、中心にたどり着くとワープが始まる
- トンネル内では、入口の匂いが出口の匂いへと徐々に変わっていく(入口と出口の匂いはどちらもワープ後に獲得できる)
- それぞれの風景では、描かれているものと関係した匂いが置かれている(風景のテーマは公害や自然など)
図4 トンネルの様子
- 12個の匂いを全て集めると、ゲームクリアとなる
- (4つの風景の全体像が表示される)
図5 ゲームクリアの様子
アンケートとコメント
本コンテンツの体験者に対して次の内容でアンケート調査を実施した。
- ゲームでの体験を評価するための14項目(7個のファクター×各2問に対して0「全くそう思わない」~4「非常にそう思う」で評価)
- 匂いに関する質問4項目(12個の匂いのうち印象に残ったものを選ぶ質問+匂いの感じ方を記述してもらう質問3個)
- ゲーム全体へのフリーコメント
0~4の数字で回答する質問の集計結果を図6に示す。 多くのファクターにおいて回答は2付近に集中したが、Tension/Annoyance(ストレス)およびNegative affect(退屈)では1以下に集中した。 この結果から、本コンテンツは体験者にネガティブな印象を与えなかったといえる。 また、多くの質問で回答が2付近に集中した原因として、質問文が抽象的であったこと、回答者の文化的な背景が影響したことが考えられる(コロナ禍の影響で大多数の体験者が日本人だった)。

12個の匂いの中で印象に残った匂いの集計結果を図7に示す。 みかんとりんごの匂いが突出して多かったことが見て取れる。 これらの果物の匂いが多くの体験者にとって身近であり、認識しやすかったためと考えられる。

また、大多数の体験者から記述コメントが得られた。その一部を以下に示す。
- 斬新でおもしろかった
- さらなる発展に期待(警察犬をテーマにする、匂いの方向を使う、個人の記憶との関係を織り込む、など)
- ゲーム性はあまり感じなかった
- 匂いの変化が予想以上にわかった/あまりわからなかった
コンセプトの新鮮さを評価する意見が多かった一方で、ゲーム性やストーリーが不十分であったという指摘も多かった。 また、匂いの感じ方に関しても、個人差への対応など改善を要する点が挙がった。 実演を通して把握できた不足部分を踏まえ、今後のコンテンツ作成ではさらに内容を発展させる予定である。