「香気分子構造をもとにしたSOMによる嗅覚受容体の応答強度予測手法の開発」

1. 嗅覚受容体の応答強度予測

ORNsの応答データ(4)をもとに要素臭を抽出し、近似臭を作成できる可能性を筆者らは示した(5)。生物学的な受容体の機能解明データの蓄積は近年急速に進んでいる反面、匂いを構成する香気物質に対する、すべての嗅覚受容体の応答を取得することは事実上不可能であり、使用可能な香気応答データは限定されている。そこで香気物質の分子構造パラメータに基づく嗅覚神経細胞の応答予測を行うことを考え、自己組織化写像(SOM)による嗅覚受容体の応答強度予測と変数選択法に関して検討をした。


図1. 自己組織化写像(SOM)を用いた香気分子の化学構造からの嗅覚受容体の応答強度予測

筆者らは、より多くの香気物質に対して分子構造を考慮した受容体の応答予測の構築するため、図5のように個々の香気分子に対応する“分子パラメータ(structural descriptors) ”を得、自己組織化写像(SOM)を用いて、香気分子の化学構造からの嗅覚受容体の応答強度を予測する手法を検討した。

Talete dragonは化合物の構造を入力すると5000種類近い分子の構造の特徴パラメータを生成させることができる市販のソフトウェアである(6)。筆者は、個々の香気分子に対応する“分子パラメータ(structural descriptors) ”を得、香気物質の構造のパラメータと、既知の応答強度値をペアにして、自己組織化写像(SOM)を学習させるとSOM中の各ノードベクトルは応答情報を含む構造となる。応答強度未知の香気物質の構造パラメータに対し、最近傍ノードベクトルをSOMから選択することでSOMを利用した応答強度予測ができる。Talete dragonで生成したパラメータを使用して、ORN応答強度推測が‎できることを確認した。

2. 嗅覚受容体の応答強度予測におけるパラメータ削減手法

筆者らは変数(分子情報)を選択することで、精度の向上が見込めるのではないかと考え、2段階のパラメータ削減手法を提案した。まずパラメータの組み合わせにおける条件数の比較から大まかにパラメータを削減し、leave-one-out法を用いた交差検定の赤池情報量規準(AIC)に基づき、パラメータを掃き出し法により一つずつ減らすことで良好なパラメータ組合せを得ようとした。条件数計算および赤池情報量(AIC)による評価をもとに、パラメーターを漸減させながら最適各パラメータ組合せにより応答予測を行う手法を提案した。

図2. 交差検定のAICによる評価に基づく最適なパラメーターの選定

OR65a, OR13aのデータへこの応答予測法を適用したところ、 OR13aのデータについて比較的良好な予測が得られた(図6)。OR13aは香気物質に対する選択性がややブロードである。ブロードな選択性を持つ受容体の応答予測に対して有効であることが示唆されたと考察している。

3. まとめ

筆者は昆虫の嗅覚受容体の応答データをNMF法を用いて解析し、実用的な要素臭が探索できる可能性が示唆された。また応答強度未知の香気物質の構造パラメータを用いて応答を予測できることを報告したものの、発展的な予測手法を検討する余地がある。本手法をもとにすることで、生体による最初段の“匂いコーディング(符号化)”の解析、人の匂い識別特性の科学的な理解、匂いの情報化手法の確立につながると考えられる。

4. 参考文献

  1. 二瓶, 中本, 電気学会全国大会(2012), 3-147.

  2. Daniel D. Lee and H. Sebastian Seung, Nature 401(1999), 21, 788-791.

  3. 澤田宏:「非負値行列因子分解NMFの基礎とデータ/信号解析への応用」 , 電子情報通信学会誌 95(9), 829-833 (2012)

  4. Hallem et al., Cell, 125(2006), 1, 143-160.

  5. Y. Harada et al., Sens & Materials, 26(2014), 181

  6. Todeschini, R.; Consonni, V.; Mauri, A.; Pavan, M.. DRAGON User Manual; Talete srl: Milano, Italy, 2006.